小さな森の家

この本のまえがきを、著者であり、この家の設計者であり住人でもある吉村順三さんは、こう書き始めています。

軽井沢の私の家をまとめた1冊の本をつくりたいと、この10年来考えていた。それも建築の専門書ではなく、だれにでもわかりやすい、楽しい本を。この家は自然のなかにあって、なにかわくわくするような楽しいものをもっているからである。

この思いつきが、この本のすべてにおいて成功していると思います。この家の魅力を伝えることにおいて。この本を魅力的なものにすることにおいて。

第1章は、森の小径からアプローチして徐々に家が見えてきて、玄関をはいって階段を登り、2階のリビングや各室をめぐり、また1階ヘ戻ってきてテラスでくつろぐ。このシークエンスがきれいな写真と簡潔な文章であらわされています。この家の魅力を伝える文章も、とても控えめでチャーミングです。

第2章は、この家の設計時に実施設計図を作図した担当者に話を聞きながら、多くの図面と共にちょっと専門書よりの内容になっています。それでも、とても平易な文章で表されているので、建築の専門家以外でも楽しめる内容になっていて、この家の魅力をさらに深く知ることができるでしょう。この章の存在によって、建築の専門家にとってもこの本を十分に満足できるものにすることに成功しています。

第3章では、四季の移ろいによって軽井沢の森の景色が美しく変化し、それと同時にこの家での生活も移ろっていく様子が美しい写真で表現され、さらに第4章では、この家の建つ軽井沢の魅力について書かれています。
山荘のような建物を、まわりにほとんど家のないような場所に建てる場合、その土地に惚れ込み、そのまちに惚れ込み、その環境をこころからの愛情を持ってとらえていなければ良い建物なんてできあがるわけがないという、当たり前のことにあらためて気づかせてくれます。

第5章では、家族が年をとって住まい方が変化し、それにつれてこの家が改修され、増築されていった様子が描かれています。これほどの名作と呼ばれる家であっても、常により住まいやすくするために手が入れられていったことがよくわかります。また、かなり大きく増築されているにもかかわらず、よくこの家の写真として登場するアプローチからのとても印象的な外観にまったく変化がないことにも驚かされます。

最後に、吉村順三さんが最初にスタッフにわたした、この家の1/50スケールのスケッチが掲載されています。この段階でこの家のすべてができあがっていることがよくわかります。

建築設計に携わる僕としては、普段自分が肩肘張りすぎていることに気づかせてくれ、これでいんだ、が、これがいいんだ、になり、これじゃなきゃだめなんだ、という具合に心をほぐしてくれ、ホッとさせてくれる本でした。

小さな森の家―軽井沢山荘物語
小さな森の家―軽井沢山荘物語
  • 発売元: 建築資料研究社
  • 価格: ¥ 2,447
  • 発売日: 1996/04
  • 売上ランキング: 81272
  • おすすめ度 5.0


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