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歌うクジラ/村上龍

久しぶりに村上龍を読みました。

この小説が発表されたときに書店でこの本を見かけてタイトルにものすごく惹かれたけれど、結局読まずじまいでした。このまえ図書館へ行ったときにこの本があるのを見つけ、迷わず借りてきました。内容は、このタイトルから想像していたものとはまったく違うものでした。だって、クジラはほとんど出てきません。

近未来の日本の姿を圧倒的な筆力で描いた、あいかわらずの読者を圧倒する内容なのですが、その本筋とは少し離れたところで、僕の心をガシッと鷲掴みにした部分がありましたので紹介してみたいと思います。これだったらネタバレにならないだろうし、でも、もしかすると村上龍はこれを書きたいがためにこの長い小説を書いたんじゃないかと思えたりもしたりします。

それは下巻の中盤あたりにあります。33歳でノーベル賞を受賞して、日本政府によって長生きする遺伝子を注入されて、100年以上も生きているサツキと呼ばれる女が語る言葉として書かれています。サツキはまず、主人公のアキラにこう尋ねます。
アキラ、君はそもそも悲しみという感情を、どうして人間は必要としたか知っているの? 主人公がそれについて考えようとしたときに、ある出来事が起こってそのやりとりは中断され、しばらくしたあと、サツキはその答えについて話し始めます。
これまでの数えきれない歳月で親しい多くの人を失った。(中略)彼らや彼女たちを失うと、彼らや彼女たちを、心の中の、精神の隙間の、特定の場所に刻み込まなければならないでしょう? そのために悲しみという感情が必要なの。やっかいなことに、彼らや彼女たちの記憶を焼き付け刻みこんでくれるのは、悲しみだけらしいのよ。 なるほどそうか、そういうことだったのか。そしてこれを書きながら僕は、昔こんな記事を書いていたことを思い出しました。
悲しみなんて何の役にも立たないと思っていた。 おぼろげにつかんでいたものの輪郭がはっきり見えたような感じです。

そうそう電子版もあります。坂本龍一の音楽と、各章ごとに描かれたアートワーク付きです。この小説を書き上げた直後に iPad が発表されて、速攻で電子化およびリッチコンテンツ化に踏み切ったそうです。 村上龍 歌うクジラ on WEB村上龍 歌うクジラ そして、こちらは書籍版。 電子版と比較すると、倍以上の値段になっちゃうんですね。ムムム。

歌うクジラ…